kikuyamaru's blog

こちらにはノンジャンルの長文などを書いています。

"根絶"坂

古い話が続いてごめんなさい。

40年ほど前のことです。ニュースセンター9時という番組…「キャスター」が語るタイプの初めてのニュース番組といえると思います…の冒頭で、ある病気にかかってから直るまでの患者さんの顔写真が時系列で流されました。顔がぼこぼことした膨らみに覆われ、やがてひいていくまでの様子は、子供だった私に、酷くこわいものとして印象づけられました。
その病気は「天然痘」。その日「天然痘」が根絶されたと宣言されたのです。

NHKのドラマ「大仏開眼」の中では、天然痘は「もがさ」という、藤原一族の有力者を次々と死に追いやった病として描かれていましたが、太古から人を恐怖させてきた病です。

種痘(天然痘の予防接種です)を始めてから200年かかって、人は(病としては)天然痘を根絶することができた、ということです。

その次、と目されているのがポリオです。

かつて「すべてのこどもにワクチンを」というスローガンを掲げて活動していたローカルヒーローの団体がありました。その活動を通して、私は、ポリオ根絶の運動を知りました。

きっといける、と思ったのは、あの天然痘根絶のニュースを覚えていたからです。

ポリオは乳幼児がかかることが多い病気です。現在でも治療法がないとされているので、予防が重要になります。こども達みんながワクチンを接種し、その地域での流行を押さえ込みながら根絶へ近づけていきます。(だから、自分がかからないという観点に加えて、すべての人がかからないという観点が必要になる。この辺が想像しづらいことが、個として予防接種を拒否する人に繋がってるのかなあと思う。余談。)

2020年の年末現在、アフリカでの(野生の)ポリオの根絶は成ったようにみえます。あとはアジアの2国だそうです。この5年ほどでも随分と成果が上がったことが分かります。
野生のじゃないのはなにかというと、ワクチン由来の変異種が残っているのだそうです。(生ワクチン自体の直接の害とはまた別の話です。)また、根絶されていない国から、集団免疫の低いエリアへの持ち込みも考えられ、真の根絶にはまだかかると思われます。
しかし、生きてるうちに2つめの伝染病根絶を見ることができるかもしれない。そうなると良いな。

さて、いま気になるのは例のヤツですね。

日本でポリオが流行した昭和30年代に、NHKが始めたという"ポリオ日報"というものは、いつどこにどれだけ感染者が出たかを医師→保健所→NHK支局→東京、と報告して集計する仕組みだったそうです。(これは、恣意的なキャンペーンであったことが仕掛けた側から明かされています)*1
いま我々が毎日目にする数字も、漏れ聞く限りでは、報告先が自治体になっているものの、当初は保健所からのFAX。(現在は準備のできたところから電子化されているようですが)なんというか、変わっていない。"テレビのチカラ"でなくなっただけで、半世紀前に人が考えたのと同じことを現在もやっているんですね。

しかし、ポリオのワクチンはそのとき既にあった。私たちがいま直面しているヤツにはまだそれがありません。(ありませんは言い過ぎですが、試験されて効果が分かっていて接種できるという状況にはない)

With とかやめてくれよ、と思いますが、しばらくは、現に存在することを前提にして拡げないように防御しつづけ、やがて根絶へ向けての光が見えることを待つしかないのでしょう。

拡げないためには、多くの人々が継続的に同じ方向へ動かなければなりませんが、その風はどうやって吹かせれば良いものか。今年(2020)の3月から4月にかけてのあの厳しい雰囲気は既にないように思われます。我々は"ようやくのぼりはじめたばかり"なんですけどね。(ャな絵が浮かびますねw)いや、のぼってるといいけどなあ。

 

"僕は絶望していません。できると信じています。"

もう10年近くになってしまいました。震災の爪痕が生々しい頃に、ある記者が語った言葉です。困難に直面する状況において、私は、それが他のことあっても思い出すのです。

私も絶望しない。それを伝えたくなって、このエントリーを書きました。

良いお年をお迎えください。
2020年 年の瀬に。

 

参考

日本でのポリオ流行と根絶への取組について下記を参考とさせていただきました。

及川病院; ポリオとポリオワクチン

http://www.oikawa-iin.jp/polio.html

また、上記に記載のある書籍「根絶」の中にポリオ日報に関する記述があります。脚注参照。

*1:上田 哲;根絶 社会思想社、東京、1967

書籍「根絶」の内容はWEBで公開されています。
上田さん(故人)の許可を得て内容を掲載されているサイトは以下。
『根絶』 (上田哲氏著) のトップページ
http://jappan.zouri.jp/konzetu/